オーディオの名門パイオニアが香港ファンドの傘下に入った!というニュースを見つけて寂しい気分になってしまった。筆者の世代にとってステレオは憧れの商品であり、ソニーとパイオニア、それと当時はトリオと呼ばれたケンウッドのどれを買うか?などと中学時代に友人たちと熱心に議論していた覚えがある。

 それと筆者はパイオニアを受けて内定を戴いたからちょっとばかり思い入れがあるのだ。今から30年前に研究室の担当教授から現在は台湾企業の傘下に下った大阪の家電メーカーの推薦状(=実質入社確定)を戴いたものの、その直前に旅したタイにすっかり魅せられてしまった筆者はタイどころか海外赴任の可能性が全く無いこの推薦を蹴ったのだ

 それで自分の足でタイに赴任できそうな会社を探しては試験を受けまくったのだが、最終候補に絞った3社のうち1社がパイオニアで、その理由はタイ進出プロジェクトが始まったばかりだが海外人材が極端に不足していること(=潜り込みやすい)、そして技術系が主に配属されるのは埼玉県の川越事業所で、すぐ近くに祖母の旧宅があったからである。

 当時は土地がベラボーな値段で取引されており、サラリーマンは一生どころか子供の世代までローンを払い続ける宿命づけられていたが、我がファミリーでは祖母には筆者ともう一人6歳上のエミコしか孫がおらず、しかも東村山にもう一つ家があってそこに住んでいたから、この川越の旧宅に永久に居座っても誰も文句を言われないご身分だったのだ。

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 それで最終的にパイオニアに絞りかけたある日のこと、学閥とか昇格システムなんて細かいことを聞きにパイオニアのカーステ営業部にいる先輩を訪問したら「オーディオのダウンサイジングと価格破壊は今後ビックリするくらい早いスピードで進むけれど、わが社にはその備えが出来てないから窮地に陥るぞ!」と気になる話を聞かされたのである。

 後輩に向かってオレの会社は危ないぞ!と言うのもどうかと思うが、この先輩が熱心に語ったのはウォークマン登場後にソニーは商品のコンパクト化と低マージン型で簡素化された販売チャンネル政策を進めているのに対し、パイオニアは各地にサービスセンターや在庫拠点を持って石丸電気みたいな家電店へと流す古くからの販売チャンネルから思考的に脱却できそうにない!という事である。

 筆者は理工学部の学生で、マーケティングとか経営学については当時全く知識が無かったが、なぜかこの「思想的に脱却できない」という話はピン!と来るものがあり、それで折角いただいた内定だけれども多摩川べりの研修センターで行われた謝恩会の場で入社する意思が無いことを申し出てその場を辞したのだ。

 ちなみに筆者はパイオニアに対しては「申し訳ない」という気持ちが強いから悪く書くつもりは無いのだが、しかしつい先ほどホームページにある社史に目を通してみたところ、1995年タイ工場と上海工場稼働、1997年香港に調達拠点、2005年ベトナム工場稼働など競合他社に比べて進出タイミングが干支一回りくらい遅いのに目が留まった。

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それと肝心の商品の方もカーステレオは良いけれど、大ぶりオーディオにレーザーディスク、プラズマTVDVDなど企画は良いが資本力が続かないとかタイミングを間違えた、将来性はあるが巨額の投資と厳しい価格競争が予想される商品に手を出すなど、なんというか見通しの悪さと軌道修正がしにくい体質が窺える。

 想像だけれどパイオニアは社内の和をモットーとする、社員にとっては非常に良い会社であったに違いない。だからこそ多くの意見を取り入れるよう苦心してきたが、これが問題なのは売り手側にいる人間たちを最大限満足させようとすれば、えてして買い手側にとって不満足な答えが増えてくるものである・・というトレードオフの観念が欠落してしまう事だ。

 国内拠点の雇用を守るために海外進出のタイミングを逸する、ある部門の研究を開発部門がずっと「してきちゃった」から商品化してしまう、選択と集中を図るもののそのメニューには社内の輪に都合が良いように事業将来性が無意識のうちに書き換えられている等々パイオニアには外部環境をプリズムのように屈折させた姿で見る社風になっていたに違いない。

 かつて香港企業に買収されたアカイやサンスイ、ナカミチが結局どういう結末を迎えたのかを見ればパイオニアには暗澹たる将来が待ち構えていると思えるが、筆者が想像するにパイオニア社員は案外のんびり構えていて、自分たちが今後どういう事態に陥るのかを充分知覚できてないのではないか・・と思えるのだが、いかがだろうか?
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