香港支店で同僚だったジャネットから「あんた香港に遊びに来ないとだめよ!」というチャットが来た。現在香港政庁はIDカードを総入れ替えする手続きが始まっており、今年6月か7月に香港でカード変更しないと香港永住権を失っちゃうわよ!と伝えてくれたのだ。

 実は筆者なこのことを知っていて、だから今度の日本滞在の後で香港に寄るよう飛行機を予約したのだが、若い頃から一緒に働いた仲間だし高校生の娘がいる今でも色気ムンムンのジャネットゆえ「おー!それは知らなかった!」と知らないふりをしたところ・・その後の会話がちょっと重かった。

 もう香港に住む理由は無いわよね・・という一文とともに陶傑(キット・トー)という有名作家のコラムが添付されてきたのだが、その題名は「二選一的国運」となるもので、ジャネットがしばらく沈黙していたことから意図を酌んで読んでみたのだ。

 これ中国人が二者択一を迫られた場合、誤った選択をしてしまうケースが非常に多い・・という内容で、蒋介石の国民党ではなく毛沢東の共産党に中国本土の政権を与えてしまった事、そして天安門事件の直後に鄧小平が改革派の趙紫陽を切って李鵬を選んだ事を例に上げていたのだ。

 そして本題は前回の香港行政長官の選挙でも優秀な財政家であり英米派のジョン・ツァンではなく親中派のキャリー・ラムを選んでしまったために現在香港の独立性は徐々に失われ、中国との犯罪者引き渡し協定をめぐって最近13万人のデモが起こってしまった・・と書いてあるのね。

 つまりジャネットは「あんたはフィリピンにいるから香港に用は無いだろ?」ではなく、「あなたにとって香港はもはや魅力的では無くなってしまったのではないか?」と言いたかったようだが、ジャネットを失望させるのは嫌だったから昔の様に口説き文句を混ぜながら話を誤魔化したのである。

 しかしジャネットとチャットでしている最中に筆者の脳裏によぎったのは「このコラムは正しいな」という考えで、確かに筆者は今後香港に住む可能性は低そうだけれども、なにより「中国人は肝心な時に間違えてしまう」という一説に「その通り!」と叫びたかったのだ。

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 筆者が香港に赴任したのは1994年で、これ3年後にイギリスから中国へ返還される過度期だったのだが、香港人たちの間には世紀末的なムードが漂っているのか?と思いきや、これが全くのアベコベで、彼らは自分たちの将来が良くなる!と本気で思っていて、海外人の持つ悲観的な香港将来図とのギャップに唖然としてしまったのだ。

 筆者の周りにいたのは共産主義者か民族主義者なんかではなく、みーんなファッションや芸能なんかに夢中なごくごく普通の人たちなのである。で、自由を謳歌している香港人たちが何ゆえ自由を抑圧する中国を讃えたのかというと、彼らの頭の中は経済の事でいっぱいで、そもそも民主主義とか自由主義という概念が薄かったのだ。

 イギリスの支配下で長年政治や経済の自由を享受はしてきたが、それはあくまで与えられたものであって自分たちで築き上げたものではない。だから香港人たちに「あんたらが自分の頭で国家の設計図を書きなさい」と言われてもアイデアは出てこないし、皆の意見を最大公約数的に取り入れると辛亥革命直後の中華民国みたいな体制になってしまうのだ。

 そんなはずはない!香港には優秀なテクノクラートが沢山いるじゃないか!という意見もあるだろうけど、これ「かつてはいました」というのが正確な答えで、彼らのほとんどはサッチャー・鄧小平の香港返還合意の後にカナダやオーストラリアに移民してしまったから、筆者が香港で接したのは上澄みが取り去られた濁った下半分だったのね。

 公の観念が希薄な中国人ゆえ頭の中に明確な国家設計図が有るはずもなく、さらに高等教育を受けた人間が真っ先に国を捨ててしまうのだから残ってる人間に何かを期待する方が無理なのだ。だから自分に利益をもたらしそうな親分を見極め、仰せのままに!と擦り寄っては分け前をもらう・・という思考パターンのままなのだ。

 上に書いた以外にも中国人は儒教的な人治思想から出れないとか、脳機能的に抽象的な思考が苦手だとか、あるいは享楽的な考えのため統制とか制御の執行者となる政治がそもそも嫌悪している等があるのだけれど、とにかく中国人は政治判断では間違えを繰り返すのは彼らの歴史が示すとおりである。

 長年香港と中国を行き来していれば中国の本音はイギリスの植民地として長年積み上げてきた膨大な資産、そして金融、貿易、工業のノウハウを全て吸い上げて深圳と上海と移植することだったのは誰だって見抜けたはずだが、残念ながら目の前のカネに目がくらんだ香港人たちはそういう共有認識を作ることが出来なかったのだ。

 ただ筆者は都合16年も香港にいて、そこには楽しい思い出がたくさん詰まっているし、友人にも恵まれたからこれ以上批判的にはなりたくないのだ。だからジャネットに対しては口説き文句の合間に「今からでも遅くないから外国への移民を考えたらどうか?」と匂わせたのである。

 だって中国共産党にとって香港は既に刈り取りの段階を終えていて、次は良く言えば中国と一体化、現実は自由を統制し資産を収奪する段階へと入りつつあるからだ。もちろん明日明後日の話ではないけれど一般の香港人が幸福に過ごせる余地は年々無くなっていくのは確実。だから香港の将来は限りなく暗いと思っている。

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